次元爆弾:森本晃司

20分間の濃密デート。それまでのフィルムとはまるっきり違う劇場空間占有だった。とろんとしたゼリーの中に腰からゆっくり沈んでくみたいな感覚、視界には冬の澄んだ空気の清々しさが広がっていて、光と音と記憶が冷たいプリズムの中で乱反射する。観ているあいだ胸が張り裂けそうで、ずっと喉の奥が熱かった。
好き嫌い、わかるわからないに関わらず、この作品を「観念的」ととらえる向きがあるみたい。確かに、描かれているのは物理的に存在する風景だけじゃないから言葉として間違っているわけじゃない。でももしそこに「トリッキー」みたいな意味が内包されているのだとしたら遺憾だなあって思う。わたしたちの世界はほんの少し悲しかっただけでもいとも簡単にブルーになるし、好きな人の部屋に向かう足はいつだって軽い。妄想じゃなくて幻想じゃなくて、世界をそう感じた瞬間が少なくともわたしには何度もあるし、逆に、そうじゃない人の日々はどんなにつるんと摩擦のないものなんだろうと思う(っていうかそんなヤツはいねえ)。
情景は、世界設定や物語やキャラクターみたいにラインで語れるものじゃない。人生にぽつぽつとある点。とてもとても個人的な、内緒の秘密の点。でも、国や人種や時代が違っても、平凡っぽい人生でも奇抜っぽい人生でも、いつのまにか同じ点を踏んでたりするんだよね。それで思いもかけないタイミングで他人の点にふれて、自分と重なってぐわんと心を持っていかれてしまう。それは友だちができるときみたいなケミストリー。どうしてこの感じ知ってるの?ってほっとしちゃう、はじめてあったのに懐かしい、幼なじみみたいな感触なんだ。
その奇跡だけで結ばれた作品が「次元爆弾」なのだと思う。なぜかあのとき伝えられなかった言葉とか、会いたいっていう気持ちとか、なによりなんでもない日々の光… そういうリグレットと祈りであふれてる。生々しくて、ぎゅうってなる。これってまんま、いつものわたしたちの有様なんだもの。